研究内容
補完代替療法
補完代替療法とは
武道やヨガ、修験道のような東洋的実践は、修行や稽古を通して「悟り」「無敵」のような、通常の健康な状態以上の高い境地を目指すことを含んでいるので、必ずしも医学的な治療と同じではありません。しかし、東洋的な実践の方法のなかには、心身の疾患や不調の改善につながる、治療的な要素が含まれていることが知られてきました (図)。たとえば古くから、すぐれたヨーガ行者や修験道の山伏は、すぐれた医者も兼ねているとも言われてきました。
「補完代替療法 (complementary and alternative medicine: CAM)」 と総称される、伝統の中で、あるいは民間で実践されている治療法や健康法には、東洋的実践の治療的要素を活かしたものが多数あります。これらの中には、私たちが日常に有益に取り入れられ、心身の疾患や不定愁訴の緩和療法となるものも少なくありません。
近年では、東洋医学、伝統医学と西洋医学の要素を有機的にまとめ上げ、一人一人に合わせた治療、ケアとして再構築する、統合医療 (integrative medicine) あるいは統合健康法 (integrative healthcare) と呼ばれるアプローチも、世界的な潮流になりつつあります。
補完代替療法の具体例
たとえば整体 (指圧、マッサージ) は、手技を中心とするボディワークで、日本古来の療術の要素や、カイロプラクティックなどのアメリカ由来の療法の要素を含んだものがあります。
中国の漢方医学に基づく整体や鍼灸治療では、身体を通る脈管組織である経絡 (けいらく) と、経絡上にあるとされる、身体内の異常が現れる場所である経穴 (けいけつ; いわゆる「ツボ」) の存在を仮定しており、それぞれ電車の路線と駅に例えられます。経絡や経穴は、近代の生理学では説明が難しいにもかかわらず、2000年以上もの間、経験的に治療効果があるとされてきました。
食に関わる療法や実践もあります。食事を一定期間絶つ断食 (ファスティング) は、非宗教的な文脈では、内臓を休息させて腸管からの老廃物の排出を促進する、排毒 (デトックス) による健康法としての効果があると考えられています。難病治療のための長期断食だけでなく、2泊3日で効率的に宿便を排出する、坐禅断食のような実践しやすいプログラムも開発されています。
また「医食同源」の考えに基づき、食材を丸ごと食べる (一物全体食)、土地に合った食材を食べる (身土不二) などを重視する自然食、陰陽思想を取り入れた日本発祥のマクロビオティック、インド医学に基づくアーユルヴェーダ、中国医学に基づく薬膳など、食自体に関わる療法・実践の体系もさまざまなものが提唱されています。
さらに、足浴や果糖摂取を控えるなどの生活改善やクリパルヨガの組み合わせにより、内臓の冷えや血液循環、消化力を改善する養生法も提唱されています。うつや不安など、一見精神的な症状に見えるさまざまな不調や不定愁訴も、身体的な養生を取り入れることで改善する場合が少なくないことも指摘されています。
補完代替療法の科学研究
これらの代替補完療法は、施術者の現場的な経験の蓄積に基づいて発展してきたものが多く、科学的な証拠が不十分か、いまだ研究自体がほとんど緒についていない場合も少なくありません。これらの多岐にわたる療法の中には、良い側面も不十分な側面も、両方あることが考えられます。私たちがこれらの療法をどのように捉え、どのように向き合っていけばよいのかを明らかにするためにも、現在使える研究方法を用いて、客観性のある実証研究を進めることが望まれます。