研究内容
ソマティック心理学
ソマティック心理学とは
西洋の力動的心理療法や人間性心理学、神経科学などの流れをくみ、「ソーマ (身)」と「サイキ (心)」の統合としての人間を研究する心理学です。1960年代から米国カリフォルニア州のエサレン研究所を中心に展開された「人間性回復運動」が、現在のソマティック心理学の母体とされています。ここでの「ソーマ」は、単に物質としての「身体」ではなく、気づきをともなった一人称としての「身」を意味し、目に見えない生命エネルギーをも含んでいます。
ソマティック心理学は、身体性を基礎に身体と心の高次な統合を志向する点では「身体心理学」とも共通していますが、必ずしも東洋的実践だけではなく、ダンス・ムーヴメント、タッチセラピーなどの種々の西洋で開発された「ソマティックス (身体技法)」の実践と研究も含んでいるのが特徴です。いわば西洋版の「心身一如」の学問といえます (久保, 2011)。
ソマティック心理療法
心理療法の領域でも、近年は従来の行動療法や認知行動療法などに加え、身体性をベースにした治療的介入、ケアを主軸として精神症状の低減を図っていく「ソマティック心理療法 (somatic psychotherapy)」が、欧米を中心に導入されるようになっています。
とりわけPTSD (心的外傷後ストレス障害)・トラウマ治療の領域では、これらの療法が高い効果を挙げています。視線を固定することでトラウマ記憶の処理を促進するブレインスポッティングや、ソマティック・エクスペリエンシング (SE療法)、プロセスワークなどは、日本での導入も始まっています (図)。これらの西洋発祥の心理療法にも、マインドフルネスとも共通する東洋的な要素も含まれています。
これらのソマティックスやソマティック心理療法は、心理学の理論に基づいて開発されたというよりも、施術者の長年の経験や訓練を通してボトムアップ的に発展してきたものが多いです。しかしながら、実践と両輪をなす要素として、科学的な裏付けもまた重要であり、心理学の手法を用いた実証研究を蓄積していくことが望まれます。