横洲 有咲(学部4年生; 教育学部教育心理学専修)

Arisa Yokosu

プロフィール・研究紹介

東洋思想およびその実践としての東洋的行法(瞑想やヨーガ、武道、気功など)における自我境界や自我感覚の変化、それが心理状態にもたらす影響などに関心があり、卒業論文のテーマとして研究を進めています。


様々な東洋的行法においては固定的な自我意識が薄くなり世界と一体になるような感覚や、暖かく肯定的な幸福感に包まれるといった特有の心理的、身体的な体験が生じることが経験的に認められています。こうした状態は変性意識状態(ASC)と呼ばれ、潜在能力の開発や人間的成長と重要な関連性がある一方、我々の普段の状態である日常の意識水準とは現実の捉え方が大きく異なってくることから、適切なコントロールが働かない場合での変性意識状態は社会的に「異常」で「退行」した病的な状態とみなされることもあります。


しかしながら、こうした意識の段階で生きられる「世界」とは「言語を用いて概念を操作し、理性的に現実を解釈する」ことを要請される日常的な意識においては知られることのない、純粋で原始的な豊かさに満ちているといえます。身体に肉薄する沸き立つような「感じ」や言葉を凌駕する圧倒的な「腑に落ちる感覚」は概念に還元できるものではなく、どこまでも個人的だからこそ生々しく絶対的なものです。

また、こうした体験は前提や状況への囚われを覆し新しい見方を拓いてゆく創造的体験であり、意味を取り払われた世界に直に接するということは「世界に行為する」状態から、ただ「世界に存在する」状態へと人を回帰させるということでもあります。そして、そこで存在の根源的な不思議さや尊さに気づくということには深い洞察や癒し、人間的な成長や変革をもたらす大きな力が秘められていると考えています。


中には、こうした意識状態を日常とは隔絶した特殊な状態という印象を持つ方もいらっしゃるかもしれません。しかし、私はこうした状態は決して特別なものではなく、日中ぼんやりしたり夢を見たりする日常意識の延長線上にあり、ふとした瞬間に到来する輝きのようなものであると感じています。数々の東洋的行法の実践は、こうした常に開かれていながら知られない空間に接触する方法の一つとして捉えることができるのではないでしょうか。


自分自身が気功を実践する中で感じる溶融感や心地よさ、身体の面白さや驚きを知的に理解することで本来の感触が失われてしまうというもどかしさがある反面、言葉で表現することでしかできないこと、科学的に捉えることで新しくわかることがあります。心理学という枠組みを借りて自分自身の中に起こる漠然とした「感じ」に光を当て、形にしていきたいと思っています。

Powered by Froala Editor