研究内容
身体心理学
身体心理学とは
自然科学の一分野として「心」を研究する心理学や脳神経科学では、人間をコンピュータの演算システムになぞらえて、心を脳内での情報処理過程として捉え、それらをモデル化します。そして、心的な過程や行動に対応した脳の機能や構造を、実験的な計測などで明らかにしようとします。このような心理学・脳神経科学の科学研究は、現代において大変役立っていることは確かですが、心身の統合としての人間のあり方の全体を理解するうえでは、どこか味気無さが残るようにも思われます。
こうしたなかで、早稲田大学の春木豊教授が提唱した「身体心理学 (embodied psychology)」では、まず身体の動きがあって、それが心のあり方を形作ると考えます。Skinner, B. F. によると、人間の身体的な反応は、反射的で無意識的な反応 (レスポンデント反応) と、意志的、意図的に行う反応 (オペラント反応) とに大別されます。一方で、それらのどちらの要素も持った反応もあります。たとえば呼吸や表情、姿勢は、常に意識している必要はありませんが、意識的にコントロールすることもできます。身体心理学では、このような反応を「レスぺラント反応」と呼び、レスペラント反応を研究することで、心と身体の統合としての人間を理解しようとします。
身体心理学の根底にあるのは、心と身体は一体で不可分のものとして相即 (そうそく) するという、東洋的な修行と共通する「心身一如」の人間理解です。
身体心理学で行われる研究
たとえば、私たちは普段、「楽しいことがあったから笑顔になる」と思っているかもしれませんが、それだけでしょうか。心理学の実験で、ペンを歯でくわえて形だけ笑顔のように口角を上げた状態と、ペンを唇でくわえて形だけ口をすぼめたつまらなさそうな表情にした状態のそれぞれで、被験者に漫画を読んでもらったというものがあります (図)。その結果、形だけ笑顔の表情を作っていたほうが、読んでいた漫画をより面白いと評定したことが報告されました。つまり、「まず笑顔を作るから楽しくなる」という、身体から心への影響が示唆されたわけです (表情フィードバック仮説) 。
楽しいことがなくてもまず笑ってみる、という「笑いヨガ」の実践が心身に望ましい効果をもたらすのも、この「表情フィードバック仮説」の応用として理解することができます。